摂食・嚥下リハビリテーション
摂食・嚥下障害の原因について
1、複数の要因
高齢者においては疾病構造が複雑化しており、複数の要因で摂食嚥下障害をきたしていることがあります。そのため、診療ではまずその要因が何なのかをしっかりと診ていくことが大事です。状態が改善する余地はあるのか、その際はどのようなリハビリテーションが適切か、また、後遺症として残る可能性があるのか、残る場合はどのような代償法が考えられるか、などを検討し、それぞれの要因に対応します。
摂食嚥下障害につながる要因の例
2、サルコペニア
摂食嚥下障害の原因はさまざまです。脳卒中による麻痺だけでなく、骨格筋量や筋力低下からサルコペニアの摂食嚥下障害をきたすこともわかってきました。舌や喉の筋力が低下すると、食べ物が気管に入ってしまうこと(誤嚥)や、喉に残ってしまうこと(咽頭残留)があり、嚥下に関する筋力を向上させるために、適切な栄養摂取と筋力強化練習が必要です。当院では摂食嚥下障害を専門とするリハビリテーション科専門医のもと、どの疾患の患者さんでもリスクがありうることを念頭に、障害が見落とされないよう診察します。
3、不適切な診断による禁食管理
高齢者の誤嚥性肺炎では、くわしい検査をすることなく、実際は食べられる力があるのに禁食として管理されていることもあります。当院では、何か工夫することで食べられるのではないか、という視点で診察を行います。
解決に向けての取り組み
1、多職種によるチーム医療
リハビリテーション科医師、内科医師、言語聴覚士、歯科衛生士、管理栄養士、看護師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、介護福祉士など多職種による相互乗り入れ型チーム医療を実践しています。
摂食・嚥下医療チームの役割
2、包括的医療を立案
嚥下機能評価・食事の工夫
当院の嚥下造影(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)は、誤嚥しているかどうかを判定するだけではありません。リハビリテーションの考えに基づき、どのように工夫したら少しでも安全に食べられるようになるか、どのような誤嚥のリスクや対処法があるか、などを十分に検討し、丁寧に介入します。
なお、重度嚥下障害の要因によっては、機能改善が得られず、あらゆる工夫を行っても安全に食べられるようにならない場合があります。誤嚥や窒息は生命や終末期の捉え方に関わることであり、その後の栄養摂取の方法については、本人やご家族の意向を第一に考え、個別にご相談させていただきます。
サルコペニア予防や治療・リハビリ栄養の提供
当院ではバリエーション豊富な入院食をご用意しています。毎週、各地の郷土料理を取り入れ、楽しんでいただける食事づくりに取り組んでいます。また、身体機能・活動を高めるためにリハビリテーション栄養の考え方を取り入れ、サルコペニアの予防・改善に努めています。入院時には体成分分析装置で体組成を測定したうえ、多職種協働のもと積極的な栄養療法を行います。
嚥下筋力の低下は、サルコペニアの摂食嚥下障害を引き起こすことが指摘されています。当院では低周波治療器を用いて嚥下筋肉群を刺激して筋力を強化し、嚥下機能の改善をサポートします。
食べる姿勢づくり
食事姿勢で重要なのは首をそりかえりさせないことです。花の香りを嗅ぐように自然にうつむく姿勢が飲み込みやすい首の姿勢です。その姿勢にするために、当院では腰から良い姿勢を作れるような座り方を検討します。
また骨折の患者さんは痛みにより座位姿勢が保てず、食事摂取が進まないことがあります。その場合も多職種で痛みの出にくい姿勢の検討や、薬の調整、間食として補助栄養を準備するなどの工夫を行っています。
歯への介入・口腔衛生・医科歯科連携
摂食嚥下の一連の動作には、咀嚼(そしゃく)があります。摂食嚥下医療はのどを診ていては完結しません。当院では咀嚼や口腔機能を高めることも重要と考え、医科歯科連携を推進しています。
また、噛みしめることができると体の動きも安定するため、身体的なリハビリテーションにも口腔機能は重要です。
当院ではかかりつけの歯科医師の往診を積極的に受け入れています。また、しばらく使っていない入れ歯がありましたら、入院時にお持ちください。常勤の歯科衛生士が、かかりつけ歯科医師と患者さん、当院スタッフと連携を密に取り、スムーズな医科歯科連携を行います。
かかりつけの歯科がない場合はお住まいの地域に合わせて往診歯科医師をご紹介させていただきます。
嚥下手帳で情報をわかりやすく共有
当院のリハビリテーション科医師が代表を務める、はなみずき嚥下栄養実践会で作成した嚥下手帳です。患者さんやご家族、また摂食嚥下障害についてくわしく知りたい医療関係者の方々にも、わかりやすく情報共有できることを目指して作成しました。摂食嚥下障害の患者さんには退院時にお渡しいたします。