当院のリハビリテーション科専門医である奥中医師の寄稿が、「J. of Clinical Rehabilitation」Vol.31.No.5に掲載されました。
リハビリテーション診療における薬剤選択の難しさ
奥中医師は、『リハビリテーションでよく処方される薬剤とその副作用①抗精神病薬』として、「リハビリテーション診療においては脳血管障害や神経変性疾患、高齢者を対象とすることも多いため、抑うつや不眠、せん妄、BPSD等の様々な精神症状に遭遇するが、薬物療法の有効性や忍容性には、健康状態や心理状態、個人因子や生活因子等、複数の要因が影響するため個人差が大きく、薬剤選択のアルゴリズム化は容易ではない」と、問題を提起します。
また、「回復期や在宅医療においてはすぐに精神科医を受診できない場合も多く、リハビリテーション診療において、治療者は不十分な情報のもとで薬剤選択を迫られている」と日常的に直面している問題点を挙げ、抗精神病薬の作用機序や副作用について言及しながら、投与方法・減薬のポイントや、せん妄状態からの脱却を図る投与タイミング、副作用と症状悪化の見間違えなど、薬剤選択時の具体的なヒントを紹介しています。
特に、リハビリテーション診療に影響を与える抗精神病薬の副作用を詳しく紹介し、「認知症高齢者では身体機能も認知機能も低下した有害事象の出現しやすい状態で投薬が行われる」ため、「抗精神病薬の長期投与により活動量の低下状態が持続し、廃用症候群が進行している可能性が示唆されている」と警鐘を鳴らします。
適切な抗精神薬選択が患者本人や家族の利益に
せん妄や認知症患者の行動・心理症状は、患者さん自身にとって苦痛なだけでなく、介護者にとっても大きな負担となります。これに対し、適切な抗精神薬を選択し、投与量やタイミングを工夫することにより「症状の改善が得られれば、リハビリテーションの効率を向上させ、患者の入院期間を短縮し、本人や家族の利益となることができる」という視点は、リハビリテーション医療に関わる多くの医療者が興味・関心を寄せるのではないでしょうか。
専門性の高いテーマですが、簡潔で読みやすくまとめられているため、医師や薬剤師だけでなく、患者のケアに関わる全ての職種の方におすすめです。日常の診療やケアにすぐに役立てることが出来る内容ですので、ぜひご一読ください。